2010-12-01から1ヶ月間の記事一覧

漫画と科学

今から 90 年前に、寺田寅彦は『電気と文芸』というエッセイ集の中で、漫画と科学の同型性について言及している。彼がここでどのような漫画を想定していたのかは、定かではない。おそらく、欧米の風刺漫画や、北斎漫画のような戯画的なものを言っているので…

世界認識としての虚像

現実世界のふるまいや構造、あるいは原理に忠実であることをリアルと呼ぶことがある。しかしその一方で、心の中のイメージに近いものも、リアル、と呼ばれることが多い。つまり、リアリティの拠り所には、二つあって、一つは外界の現実世界、もう一つは私た…

萌えと虚像

石器時代のビーナス像には、不自然に胸部や臀部に歪められた現実にはあり得もしない非人間的な形態が伴う。胸部や臀部の形態というのは、強度の強い本能的記号である。そこには生身の人間よりも強烈な人間らしさが込められ、生への意志や願望、あるいは祈願…

"完璧すぎる"視覚

イメージの世界を探索する手段として技術が可能にしたものにコンピュータグラフィックスがある。コンピュータグラフィックスは現実からあらゆるノイズや偶然性を捨象し、現実の光線の反射と透過を物理的にモデル化することによって非常にリアルなイメージを…

生物と虚像

動物心理学の世界には、超正常刺激 (supernormal stimulus) と呼ばれる現象が存在する。ある種の鳥は、似た色と形であればより大きな卵を暖めようとするのであるが、通常の卵よりも大きい模型の卵をこの鳥の側に置いてみても、その卵を暖めようとするのであ…

Bone, Black

Bone black という顔料がある。象牙や獣の骨を蒸し焼きにして、水洗いし、精製したもので、要は骨が炭になったものである。絵画の画材として使われるこの顔料は、ボーン(骨)という素材、『物質』であると同時に、ボーンブラックと呼ばれる『色』という抽象的…

裏っかわの不気味さ

Jakob Simonson, "Untitled" (Cerulean Blue Deep, Cerulean Blue, Cerulean Blue [imit]); acrylic paint, plywood, wood, fluorescent lamps; dimensions variable (painting: 282x456 cm). 絵画は通常、前を向いている。しかしながら、絵画は表面であると…

世界を創る、ということ

芸術的表現は、世界の本質について語るために、積極的に、意図的に虚像を取り入れることを選んだ。ボルヘスはその著『伝奇集』の中で、 「長大な作品を物するのは、数分間で語りつくせる着想を五百ページにわたって展開するのは、労のみ多くて功少ない狂気の…

海王星はなぜ青いのか?

実在性を探索するサイエンスに関するイメージにさえ、実は虚像が多くみられる。それには大きな理由がある。つまり、科学技術が発達することで、人間は技術によって人間が持っている感覚器よりも幅広い世界を知覚する手段を得たが、我々自身の感覚器の帯域幅…

Bounce and Squash

リアルよりリアルな虚。人の心の中にあるイメージ。イメージに近いこと、をリアルである、と言う。 またその一方で、現実に近いことも、リアルである、と言う。現実世界、と、イメージの世界。対局にあるはずの二つの世界の関係性は、「虚」について考えて行…

きょ【虚】

きょ【虚】[音]キョ(漢) コ(呉) [訓]むなしい うそ そら から うつけ うつろ うろ 〈キョ〉 1 からっぽで何もない。むなしい。「虚無/盈虚(えいきょ)・空虚」 2 うわべだけで中身がない。「虚栄・虚飾・虚勢・虚名・虚礼」 3 うそ。いつわり。「…

応挙の絵画世界における「虚」

・「からくりのある絵」(視覚トリック)・「実の写生」(現実のものの姿を写す)・「虚の写生」(この世にはないが、人々の心の中に存在するイメージの像をリアルに再現)・「気の写生」(生命感や風情を写す)・「虚実一体空間」(絵の中の空間と現実空間…

虚体とは

虚体とは「嘗てなかったもの、また決してあり得ぬもの」